クズの本懐は、2017年1月にアニメが放送されるマンガ作品。
主人公たちはお互い結ばれることのない相手に恋をしたもの同士、その秘密を共有しながら偽の恋人関係を演じ続けるという設定がこの話の根本にはあります。
私はテレビだかネットの記事だかで軽いさわりこそ知っていたけれど、実際に読んでみると主人公の安良岡花火(やすらおか はなび)と粟屋麦(あわや むぎ)がむしろ純粋な心を持った人間であることが分かりました。
……最初は。うん、最初は。
ここから各巻のネタバレを含む、あらすじと感想を紹介します。
Contents
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第一巻
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クズの本懐(1) (ビッグガンガンコミックス)
横槍 メンゴ スクウェア・エニックス 2013-02-19
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あらすじ
安良岡花火と粟屋麦は美男美女のカップルとして有名だった。
しかし二人が付き合っている理由は決して互いに恋してるからでも、相手のステータスに興味があったからでもない。
ただ、お互いが決して叶わない恋をしていることを知っているから。
二人は教師に対して諦めきれない恋心を持っているが、花火と麦が好きな教師二人はまたその二人で良い関係になっていて、そこに高校生の入り込む余地などなかった。
だから花火と麦は、お互いを求める。
決して手に入らない思い人の影を、相手に重ねながら……。
しかし決して報われない恋をしているのは二人だけではなかった。
女同士でありながら花火に恋をしてしまった絵鳩早苗。
幼い頃から麦のことを王子様だと恋慕い続けてきた鴎端のり子。
それぞれの思いは絡み合ったまま、しかし花火たちはお互いを求め続ける。
感想
最初はもっとタイトル通りドロドロっとした物語を想像してたんですが、そこまででもなかったかな、と。
しかし花火たちは完全に何もかも悟りきって恋人ごっこをしている訳ではなく、お互い思い人への思いをくすぶらせている様子に自然な感情を見ることができ、少しほっとすると同時に拍子抜けを感じてしまいました。
後半に早苗やのり子という少し俗っぽいキャラクターが続けて登場してきたのも、空気を軽くする1つの要因だったと思います。
けど、のり子の純粋な気持ちを突っぱねて麦との偽恋を押し通した花火の姿には、恋とは違うけれど、それでも麦を求める気持ちが見えて、二人の関係性を見守っていたい気持ちにさせられましたね。
で、結局クズの本懐ってなんだ? って話ですけど、クズ同士支え合いながらお互いの本懐、本当の恋を叶えてみせようぜ。っていうことなんでしょうね。少なくとも現時点ではそう思いました。
第二巻
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クズの本懐 (2) (ビッグガンガンコミックス)
横槍 メンゴ スクウェア・エニックス 2013-10-25
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あらすじ
前半には早苗とのり子を含めた登場人物たちの思いの丈が描かれる。
そして後半では、ついに早苗が花火への恋心を押し隠すことができなくなり、そのあふれんばかりの想いを強引にキスという形で表してしまう。
麦は偽物の恋人で、花火が本当に愛しているのは従兄弟のお兄ちゃん。
でも花火は本当の恋心を、自分がお兄ちゃんに向けているような思いを自分に向けられることを想像できていなかった。
早苗から伝えられた想い、そして麦を想うのり子の存在が、花火と麦の関係を問いただすのだった。
感想
前半部分でいろんな意味で面白かったのは、花火が恋愛相談を受けることになってしまうお話。
相談してきた相手の内容があまりに自分勝手なものな上、花火と相手方の価値観が見事に食い違っていることが面白かったです。花火は自分のことをクズだと思っていますが、それは自分が真剣な恋心を胸に秘めているから、それに背くような行為をしている自分を許せないことの表れなんでしょう。
しかし相談しに来た二人は、恋をしていない。
恋愛を、本気の、どうしようもない想いとして定義するなら、彼女たちはきっと「恋愛ごっこ」しかする気がないのでしょう。「ごっこ」って付いてる方が子供っぽく聞こえますが、実際にマンガで見ていると本気で恋愛している花火の方が子供っぽく映ってしまうのは、まあ真実なのでしょうね。
悪ぶってるし、言動も決して単純なものじゃないけれど、それでも花火が純粋な心を元に行動しているのが分かる一幕で、よりいっそう花火に対する愛着がわいてしまいました。
ただ、素直に思ったことと行動がかみ合うことは、現実にはそうありえないわけで……。
「結局最後は誰も残らない」という、自分自身が口にした言葉が、早苗から想いをぶつけられたあとでブーメランのように戻ってきて、花火の心に突き刺さります。
そしてそんな状態で花火は、麦に何を求めるのか。という感じで次回に続く、ってなりました。
第三巻
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クズの本懐(3) (ビッグガンガンコミックス)
横槍 メンゴ スクウェア・エニックス 2014-04-25
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あらすじ
前回早苗からの思いをぶつけられた花火は、人を愛する真摯な気持ちに対して苦悩し、麦との利用関係に一つの答えを出すことになった。
「麦のこと、好きになりたい」
お互い、相手に違う人物の影を重ねてしまう。そんな関係はもう終わりが来たのかもしれない。
しかしその日、二人は麦が恋する茜先生が若い男と二人きりで出会っている姿を見つけてしまう。
男の方は教え子だから何もやましいことはないと麦は言うが、茜の本性を知った花火は彼女に対する「嫌悪」の感情を抱くようになる。
麦も、お兄ちゃんも、みんな騙されてる。
しかしそんな花火の想いとは裏腹に、鐘井先生は、茜に告白することを決めてしまった。
それを見せつけられた花火は、それを麦に伝えることもできず、その悲しみを早苗と体を重ねることで埋めてしまう。
嫌悪していた茜と同じように、自分もまた、早苗の好意を利用して自分を慰めている。
それを自覚した花火だったが、茜に負けない女になるために、決して後戻りはできなかった。
感想
3巻は序盤から怒濤の展開の連続で、一気に物語が面白くなってきたのを感じました。
まず茜先生が男連れで歩いていたところから疑念が生まれ、その疑念は一気に確定事項まで膨らみます。つまりは清楚に見えていた茜が、実は男好きだという事実なのですが、これにはビックリでした。
これまでの設定から物語が一気に動き始めているのが、びりびり伝わってきましたね。
特に茜の過去が明かされる回では、思った以上に狂っている茜の本性に心をゾクゾクッと振るわされました。2巻までは本当にいい人そうで、だからこそ麦も花火もそこに割って入ることはできないようでした。
しかし3巻に入ってから一気に茜という存在の意味合いが変わって、これから花火がどういう行動に出るのかなどにも、非常に興味がわいてきましたね。
しかし最後の方で「どんな風にでも変わってみせる」と決意した花火ですが、その直後に茜と対面した際、男の好意を集めることに快感を覚える茜の本性を知ったときに思いっきり押されているんですよね。
恋愛相談に乗った時と同じように、決して彼女にはなじまない感情だったのでしょう。
そんな花火ですが、今後も根は純粋なまま変わらないのか、それとも変わっていってしまうのか、楽しみなところです。
第四巻
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クズの本懐(4) (ビッグガンガンコミックス)
横槍 メンゴ スクウェア・エニックス 2014-11-19
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感想
冒頭で麦が、茜の本性に気がついていたことが明かされていきなりビックリしました。しかしそういうところが好きなんだと麦が考えていることも同時に明らかになり、なんだか花火よりもいっそうクズっぽいイメージが付いてしまいました……。
ただ、同時にそれを花火に打ち明けたら嫌われそうだと考えて、そういう花火の素直な反応を悪く思っていない麦は、やっぱり昔よりも花火自身に対する好意が芽生えているんだと見えました。
その後花火は麦から「本気で付き合う?」と提案されるのですが、茜の横やりを受けて花火は一人でズブズブと暗い感情に飲まれていってしまいます。
茜に向けられている好意を奪ってやりたい。
そんな想いから花火は麦の提案を受け入れます。
そのかわりもう早苗とは元の関係に戻りたいと思っていた花火ですが、早苗も早苗で決して花火を諦めるつもりはなく、歪んだ関係を元に戻すことも切り離すこともできないままになってしまいます。
1巻の時点では予想も付かなかったほど早苗はもう自分の思いに正直になっていて、正直恐ろしいです。
他の登場人物が自分の思いを隠したり、他の相手で埋めようとしているのに対して、早苗はどんな手を使ってでも花火を手に入れようと、諦めることがありません。
この先花火がどうなってしまうのか、心配なところです。
「本当の心は隠してしまえば良い」
男を虜にするために、早苗はそうアドバイスしました。
心を開いた振りをして振る舞えば良いのだと。
そして道で出会った、3巻で茜と一緒に歩いていた男に対して、花火はそいつの気を引こうと心を開いた振りをすることになります……。
ただ、麦が「彼氏だから」と口にした時、花火の胸がズキッと痛んだのを見る限り、花火には自分のためだけに麦を魅了させたりすることはできないだろうなぁと感じました。
まあ、適当な男が相手だった場合はどうなるのか、次の巻を見てみなければ分かりませんけど。
第五巻
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クズの本懐(5) (ビッグガンガンコミックス)
横槍 メンゴ スクウェア・エニックス 2015-06-25
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前回から引き続いて、例の大学生と花火とのやり取りから始まりました。
……が、結局相手のペースに乱されてしまい、夢中にさせるとはほど遠い結果で終わってしまいます。
花火は元々鐘井先生に恋をしていて、誰かに想いを向けることがデフォルトでした。だからどうしても、自分が優位に立って相手をコントロールしたりするのは苦手なんじゃないかなって思っています。
「虚像に夢中になればいい」なんて言いながらも、その虚像を作るのにもかなり苦労していたというか、正直ボロボロだったようにも見えました。
でも、茜に崩された自尊心を取り戻すために、それでも花火は行動しないわけにはいかないんですよね……。
逆の立場にいたはずの麦は茜がそういう人間だと知った上で恋をしているし、鐘井先生から何か干渉されることもありません。だから恋をして、苦しみに苦しみ続けている花火は一人で必死にもがくしかないんでしょう。
後半では話は麦に焦点を合わせたものとなりました。
モカと(のり子)とのデートの話ですが、楽しみにしていたのに、それが偽物であるが故に大好きな人とのデートも素直に楽しむことができなくなってしまったモカの姿は、かなり悲しく感じられてしまいました。
そして最後に、モカがこれまで大事にしてきた自分の思いを捨てて麦を求めてしまった場面は、よりいっそうつらい気持ちにさせられました。
モカは完全に天然なんじゃなくて、きちんと計算してお姫様みたいな特別さを演出していた部分もありましたが、しかし心の根っこに近い辺りではずっと麦という王子様を求め続けてきていました。それを捨ててしまうのは、まるでゴミ箱に放り込まれたおもちゃのように空虚な寂しさを感じてしまいます。
もう元には戻れない道を、他の登場人物と同じようにモカも進むことになったのですね。
そして次回に続く、と。
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